ニュースの概要
韓国の慶尚国立大学の研究チームが、培養した動物の筋肉細胞と、エンドウ豆・大豆・小麦由来の植物性たんぱく質を組み合わせた、塊状のハイブリッド培養肉を開発した。細胞と植物原料を糸状の人工筋繊維に加工し、それを束ねることで、ひき肉型では出しにくかった繊維感と霜降りのような見た目を再現したという。研究は韓国の農食品関連省庁などが支援している。通常の培養肉と比べ、必要な設備投資を70〜80%減らせる可能性があるとされ、培養肉の最大の壁であるコストに踏み込んだ成果として報じられている。
引用元: 韓国の研究者、植物性たんぱく質を組み合わせた低コスト培養肉を開発(Green Queen)
分析・見解
細胞を減らして骨組みを植物に任せる発想
培養肉の費用が高い最大の理由は、動物の細胞を大量に育てるための設備と培地(=細胞の栄養液)にある。細胞の量を増やすほど、巨大なタンクと高価な成分が必要になる。
今回の手法は、肉らしさの骨組みを植物性たんぱく質に担当させ、動物細胞は風味と食感の仕上げに回す。細胞の使用量そのものを減らせるので、設備投資の削減幅が70〜80%と大きく見積もられる理由になる。これは細胞の増殖効率を磨く従来の路線とは別の、材料設計からの攻め方だ。
ひき肉型から塊肉型へ進む意味
これまでの培養肉は、ナゲットやハンバーグのようなひき肉型が中心だった。形が崩れても気にならない製品なら、細胞の塊を固めるだけで済むからだ。
だがステーキやしゃぶしゃぶ用の肉は、繊維の向きと脂の入り方が品質を決める。研究チームは糸状の人工筋繊維を束ねる方法で、この方向性を作り込んだ。米国のアップサイド・フーズなどが細胞を足場に沿わせる研究を続けてきたが、植物たんぱくの繊維を足場として使い、そのまま食材の一部にする点が実用的である。足場を取り除く工程が要らず、工程が一つ減る。
完全な培養肉ではない点をどう評価するか
気になるのは、植物性たんぱく質が混ざることで、培養肉の売りだった動物を殺さない肉という説明が弱まらないかだ。実際には、植物由来の代替肉を食べてきた層が一段上の食感を求める場面で、ハイブリッドは受け入れられやすい。完全な培養肉では価格が合わず、植物肉では物足りない。その中間に、現実的な市場がある。
シンガポールでは培養肉の販売が認められ、米国でも2023年に承認が出た。ただ日本を含め多くの国では、混合品の表示ルールがまだ整っていない。細胞の割合が何%なら培養肉と呼べるのか。この線引きが、市場の広がりを左右する。
70〜80%削減の数字を読むときの注意
この削減率は研究段階の試算であり、量産工場での実績ではない。培養肉の分野では、実験室で成功した手法が大型化で行き詰まる例が多い。細胞の品質を保ったまま繊維状に加工し、均一に束ねる工程は、生産量が増えるほど難しくなる。
また、削減されるのは主に設備投資であり、培地や人件費を含む製造原価全体の低下とは別の話だ。それでも、資金調達に苦しんできた培養肉企業にとって、初期投資が3分の1以下になる意味は大きい。
ビジネスへの影響
食品メーカーは細胞の割合を調整できる設計に注目する
食品メーカーや外食企業にとっての示唆は、培養肉を100%か0%かで考えなくてよくなる点だ。細胞の割合を数%から数十%まで変えられるなら、価格帯ごとに商品を作り分けられる。たとえば高級ラインは細胞の比率を高め、日常向けは植物たんぱく中心にする。既存の代替肉ラインを持つ企業は、そこに細胞を足す形で参入でき、ゼロから工場を建てるより負担が軽い。
規制と表示の準備を先に進める
実務で最初に詰まるのは味より表示だ。培養肉を扱う法整備は国ごとに異なり、混合品の名称は未整理の地域が多い。商品化を考える企業は、規制当局との事前相談や、細胞由来成分の割合を明記する社内基準づくりを今から始めるとよい。消費者調査も、植物性と培養のどちらを前面に出すかで反応が変わるため、早めに小規模で試す価値がある。
設備投資の判断は段階的に区切る
大型の専用設備を一度に整えるのは危険だ。まず受託製造や共同研究で小ロットを試し、繊維の均一性と原価を実測する。そのうえで、数字が合った段階で投資を広げる。研究の削減率を鵜呑みにせず、自社条件での検証結果を意思決定の根拠にすることが、失敗の少ない進め方になる。