ニュースの概要
イスラエルのフードテック企業Steakholder Foodsが、米国の食品流通大手KeHE Distributorsと組み、3Dプリンターで作った植物性の肉や魚介を米国北東部のスーパーで売り始めた。ブランド名は「Perfecta Premium Plant-Based Meat」。霜降りステーキ、フィレミニョン風ステーキ、鶏むね肉、白身魚のパティ、サーモンのパティという五つの商品が並ぶ。これまで3Dプリント肉は試食会や飲食店での限定提供が中心だった。今回は一般の買い物客が日常の棚で手に取れる形になった点が大きな節目である。実験室の技術が、価格と味を厳しく比べられる売り場に出てきたことになる。
引用元: Steakholder Foods、3Dプリント植物性ステーキなどを米国スーパーで発売(Forbes JAPAN)
分析・見解
霜降りを再現できる点が3Dプリントの本当の強み
既存の植物性ミンチ肉は、豆やエンドウ豆のたんぱく質を混ぜて固める方式が主流である。ハンバーグやナゲットのように、つぶした肉を丸める料理には向く。しかしステーキとなると話が変わる。赤身と脂が層になった断面、噛んだときの繊維のほぐれ方が求められるからだ。
3Dプリンターは、赤身役のペーストと脂役のペーストを別々のノズルから細かく積み重ねられる。霜降りの模様を設計図どおりに描ける。ここに、従来の押し出し成形では届かなかった領域がある。今回の商品群が霜降りとフィレ肉風を前面に出したのは、この強みを売りにするためだろう。
売り場に出た意味は、技術より流通網にある
今回の提携先KeHEは、自然食品や専門食品の卸として北米の小売店に広い販路を持つ。新しい食品メーカーにとって最大の壁は、味よりも棚の確保だ。小さな企業が一店ずつ営業して回るのは現実的ではない。卸大手の物流網に乗れば、冷蔵・冷凍の配送や在庫管理を任せられる。
ただし棚に並ぶことと、繰り返し買われることは別問題である。米国の植物性食肉は、2021年ごろの急成長のあと、販売数量が伸び悩んだ。ビヨンド・ミートの株価が高値から大きく下げた例が象徴的だ。一度試した客が二度目を買わなかったのが主因とされる。
価格と原材料の短さが再購入を左右する
3Dプリントは機械の投資額が大きく、一台あたりの生産量も限られる。そのため単価は高くなりやすい。プレミアムと名乗る以上、価格は通常の植物性肉より上に置かれるはずで、買い物客は本物の牛肉との差を細かく比べる。味が同等でも、割高なら選ばれにくい。
もう一つの壁は原材料表示である。近年は、長い添加物の一覧を嫌う消費者が増えた。見た目を精巧に作れても、成分表が長ければ敬遠される。技術の巧みさと、買う側の安心感は別の軸だと考えるべきだ。
別の道を行く培養肉との位置づけの違い
同社は培養肉、つまり動物の細胞を育てて作る肉の開発も進めてきた。ただ培養肉は、米国でも承認品目がごく少なく、量産と価格の面で実用化が遠い。植物性を先に市場へ出すのは、現金収入を得ながら装置と運用の経験を積む現実的な順序といえる。将来、同じプリンターで植物性と培養の素材を切り替えられれば、強みは一段と増す。
ビジネスへの影響
食品メーカーは自社の強みを一点に絞る時期にきている
今回の事例が示すのは、代替肉の競争が、何でも似せる段階から、特定の部位や食感を狙い撃ちする段階へ進んだことだ。ミンチ肉の分野は価格競争で消耗しやすい。一方、霜降りステーキや白身魚の切り身のように、再現が難しい領域は参入者が少なく、値段を保ちやすい。自社の設備や技術で最も差がつく品目はどれか、一つに絞って検討するのが近道である。
小売りと外食は試験導入から始めるのが賢明
スーパーや飲食店の仕入れ担当者は、全面的な入れ替えを急ぐ必要はない。まず期間限定の売り場や、一部店舗での試験販売から始め、再購入率を測るのがよい。確認すべきは三つある。一つ目は一度目の購入者のうち何割が二度目を買うか。二つ目は肉の売り場と植物性の売り場のどちらに置くと動くか。三つ目は価格を一割変えたときの反応である。データがそろってから棚を広げても遅くない。
日本の事業者にとっても他人事ではない。国内でも大豆ミートの市場は広がっているが、ステーキ級の食感を出す商品はまだ少ない。海外の機器メーカーと組む、あるいは国内の食品加工会社と共同で試作する道もあり、早めに情報収集を始める価値がある。